カンマ,マル。
横書きの読点はカンマ,と書いてあった何かを探している。
最近,長い文章を書いていないなと思ったのでブログを書くことに決めた。最初に何を書くべきかと考えてみると,自分の文章そのものの特徴に思いが至り,中でも自分が句読点にカンママルを用いている点に着目した。
思い起こしてみると,横書きの文章では,読点に「,」(カンマ)を使う,と小学生の頃何かで読んだ。授業で教わった記憶はなく,恐らく国語の教科書の後ろの方にあるコラムを読んだのだろう。
古い教科書に当たりたいが,博士課程修了時にほとんどの教科書は捨ててしまった。自分が書いたものは二度と手に入らないから捨てることに慎重だったが,教科書のように大量に流通している書籍はいつでも手に入ると思って捨てた。これは誤りであると今回分かった。
所有していない出版物を閲覧しようと思ったとき,まず思いつくのは図書館である。岡崎市立中央図書館のOPACに「新しい国語」と入れても教科書が出てこない。ウェブページには次のように書かれており,期待できると思ったのでレファレンスを依頼した。
教科書センターとして、岡崎市内の小中高等学校で使われている教科書を所蔵しています。また、古い教科書について、尋常小学校や国定教科書など一部所蔵しています。
—— 岡崎市立中央図書館「その他お尋ねの多い資料」
しかし,当時の教科書は所蔵していないということであった。
教科書を所蔵していそうな図書館を探すと,近いのは名古屋市の鶴舞中央図書館である。しかし,名古屋市外に住む者がメールで頼めるレファレンスは,名古屋市の郷土資料か,名古屋市図書館だけが持つ資料に関するものに限られる。行けば見られるが,岡崎からは片道1時間かかる。そもそも名古屋市は岡崎市と同じ教科書を使っていたかどうかも分からず,違っていたら所蔵されていない可能性も高い。
国立国会図書館が小中学校の教科書を集め始めたのは平成14(2002)年度からで,それ以前のものは基本的に所蔵していない1。私が小学生だった年度を網羅していないので,これでは調べきれない。教育行政について議論するときに教科書を見ることはないのだろうかと思ったが,所蔵していないのである。東京書籍の資料館である東書文庫に行くという手もあるが,出社のついでに北区へ赴くのは日程的に厳しい。
最後に頼ったのが,国立教育政策研究所の教育図書館であった(ここにあるから国会図書館は集めなかったのだろうか)。戦後の教科書を所蔵し,レファレンスも受け付けている。ただし,受けられない質問の例として「教科書にある記述の網羅的な調査」が挙がっている2。小学校の国語の教科書のどこかに書いてあったはず,では頼めないわけで,まず調べてもらう本を絞らなければならない。
使ったのは教科書LOD3である。検定教科書の書誌をLinked Open Dataとして公開しているもので,書誌は教育図書館が作ったものを使っている。国語の教科書は東京書籍だったと記憶している。LODで東京書籍の国語を使用年度ごとにたどると,在学中に版が2回替わっていた。
| 学年 | 検定 | 国語 | 書写 |
|---|---|---|---|
| 小1 | 1995 | 『新編あたらしいこくご』一上・一下 | 『新編あたらしいかきかた 一』 |
| 小2 | 1999 | 『新訂新しい国語』二上・二下 | 『新訂あたらしいしょしゃ 二』 |
| 小3 | 1999 | 『新訂新しい国語』三上・三下 | 『新訂新しい書写 三』 |
| 小4~6 | 2001 | 『新しい国語』四上~六下 | 『新しい書写』四~六 |
書名の頭は「新編」「新訂」と替わり,2001年検定では何も付かなくなる(改訂したのに「新」が一つ減っている)。LODには教育図書館の請求記号まで載っていて,頼む先としても話が早い。
次に学年を絞る。教科書は学習指導要領に沿って作られる。小1から小3までは平成元年版4,小4からは平成10年版の時代である。句読点に触れる「表記に関する事項」は,平成元年版では次のようになっている。
第1学年 句点を打ち、また、読点の打ち方に注意すること。
第2学年 句点を打ちながら文章を書き、また、読点の打ち方に注意すること。
第3学年 読点の役割を理解し、必要な箇所に読点を打ちながら文章を書くこと。かぎ(「」)を適切に使うとともに、その他の主な符号についても使い方を理解すること。
符号にまで踏み込むのは小3だけである(平成10年版も,小4以降は「句読点を適切に打ち」までで,符号の話はない5)。カンマは符号だから,書いてあるとすれば小3の教科書が本命になる。もっとも,指導要領には,前の学年で初歩的な形で取り上げたり,後の学年で程度を高めて取り上げたりしてよい,という規定もある。そこで前後の小2と小4も加え,国語は小2から小4までの6冊,書写は小2と小3の2冊,計8冊に絞った。
レファレンスを依頼すると,翌日に回答が届いた。2回に分けて調べてもらったが,8冊のどれにも当該記述はないとのことであった。
少なくとも,調べた範囲の国語と書写の教科書ではなかったようである。一体私は何を見て横書き文章の読点にはカンマを使うと覚えたのだろうか。
実際の使用において,パソコンでの文章入力がカンママルになったのは大学に入ってしばらくしてからなのだが,手書きの文章はずっと前から読点にカンマを使っている。
大学1年生のときに受けた日本国憲法のノートが図1である。

カンマを使用している。左の方にあるのはルーズリーフの穴である。鉛筆でこれだけ小さな字を書いていたことに驚いている。13回の講義がルーズリーフ3ページに収まっていた。なお,読めば分かることだが,チャタレー事件の判決を扱っていた回である。
遡って,高校2年生の地理のテストの答案が図2である。

ハッキリとカンマを使用している。
図3は中学1年のノートだが,そこまでしなくてもいいのにと思うくらいハッキリとカンマを書いている。

図4は小学4年の算数のノート,図5は小学3年の2月24日,音楽の授業の鑑賞メモである。図5に年は書いていないが,「苦」「息」「童」「曲」「事」「守」と小学3年で習う漢字6を使っており,習っていない漢字は書かなかったので,小学3年の2002年2月と分かる(2002年2月24日は日曜日である。授業参観でもやったのか?)。


いずれもハッキリしたカンマである。
遅くとも小学3年の3学期にはカンマを使用していたことが分かった。したがって,小学1年から3年のうちに読んだ何かに横書きカンマについての記述があったはずなのであるが,これ以上絞れない7。
ところで,教科書のほうはその後どうなったか。2021年発行の東京書籍『新しい国語 二上』には,「よこ書きのときに気をつけること」として,点ではなくコンマを使うことがある,という説明が載っている8。私が探して見つからなかった一文は,20年ほど後の教科書には載っていたわけである。
ところがその翌年,令和4(2022)年1月に文化審議会が「公用文作成の考え方」を建議し,横書きでも読点は「、」が原則になった。昭和27年に「公用文作成の要領」を各省庁に周知した内閣官房長官依命通知は,同月11日付で廃止された9。もっとも,カンマが禁じられたわけではない。
句点には「。」(マル)、読点には「、」(テン)を用いることを原則とするが、横書きでは事情に応じて「,」(コンマ)を用いることもできる。
原則から,事情に応じた容認へ格下げされたわけである。先の連載も,この方針の下では教科書の説明はなくなるかもしれない,と書いている。
結局,横書きの読点はカンマだと書いてあった何かは見つからなかった。分かったのは,出どころの分からない決まりを,手書きでは遅くとも小学3年から守ってきたということである。そして,決まりの方が変わってしまった。
このブログは,事情に応じるのでカンママルで書くことにする。
注
- 国立国会図書館「教科書(国際子ども図書館所蔵)」。 ↩︎
- 国立教育政策研究所 教育図書館「レファレンスについて」。 ↩︎
- 教科書LOD。1992年施行の学習指導要領以降の検定教科書を収録している。 ↩︎
- 平成10年版の全面実施は2002年度からで,2000・2001年度はその移行期間に当たる。いわゆるゆとり教育への切り替えのタイミングだったな。 ↩︎
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成10年12月)」国語。 ↩︎
- いずれも学年別漢字配当表の第3学年に載っている。文部科学省「小学校学習指導要領(平成10年12月)」別表 学年別漢字配当表。 ↩︎
- 教科書なら,調べていないのは小学1年の『新編あたらしいこくご 一上』『一下』と『新編あたらしいかきかた 一』だけである。同じ記憶のある方,出典に心当たりのある方がいたら教えてほしい。 ↩︎
- 岩崎拓也「句読法、テンマルルール わかりやすさのきほん 第8回 国語教育における句読点」に紙面の画像がある。同連載によれば,教科書が横書きにコンマを使うのは,1946年の「くぎり符号の使ひ方」と「公用文作成の要領」に依拠しているためである。 ↩︎
- 文化庁「内閣官房長官通知「「公用文作成の考え方」の周知について」」。 ↩︎
参照したページ
- 岡崎市立中央図書館「その他お尋ねの多い資料」
https://www.library.okazaki.aichi.jp/findbook/list/etc/(2026年10月24日参照) - 国立国会図書館「教科書(国際子ども図書館所蔵)」
https://ndlsearch.ndl.go.jp/rnavi/children/post_262(2026年10月24日参照) - 国立教育政策研究所 教育図書館「レファレンスについて」
https://www.nier.go.jp/library/ref.html(2026年10月24日参照) - 教科書LOD
https://jp-textbook.github.io/(2026年10月24日参照) - 文部科学省「小学校学習指導要領(平成元年3月)」国語
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/old-cs/1322319.htm(2026年10月24日参照) - 文部科学省「小学校学習指導要領(平成10年12月)」国語
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1319951.htm(2026年10月24日参照) - 岩崎拓也「句読法、テンマルルール わかりやすさのきほん 第8回 国語教育における句読点」
https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/2022/05/17/punc08/(2026年10月24日参照) - 文化庁「内閣官房長官通知「「公用文作成の考え方」の周知について」」
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/93651301.html(2026年10月24日参照) - 文化審議会「公用文作成の考え方(建議)」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/93651301_01.pdf(2026年10月24日参照)